執筆の練習

気が付くと私は、随分懐かしい感じのする部屋にいた。
閉められた水色カーテンの隙間からは、朝、もしくは昼の日差しが入ってきている。
眩しさを感じる目を手で覆い、落ち着いた後、周囲を見渡した。
紛れもなく私の部屋だ。
どうやら元の世界に戻ったようだ。
朱月は、"物語"は一体どうなったのだろうか。
そう言えば、あの本は…?
もう一度辺りを見渡すと、ベッドの上にその本が置いてあった。
私はすぐにそれを手に取り、ページをめくった。
だが、以前のように、眩い光に包まれることはない。
気を取り直して中を覗いた。


そんな…。
真っ白だったページは、文字でびっしりになっていた。
そうだ、最後、結末はどうなったのだろう?
私は一番後ろのページを開けた。


『こうして、 シンデレラは王子様と結婚し、末永く幸せに暮らした』


…嘘だ。
こんなのは、嘘のお話だ。
私が経験したのは、こんな簡単な事じゃなかった。
苦悩する、暗い、ネガティブなアイツは何処にいるの?
最後は自分のために願いを叶えようとした、勇気ある魔法使いは一体何処?


気が付くと私は涙を流していた。
何も出来ない自分に腹が立った。
結末を変えない著者に腹が立った。
何度もアイツを裏切った"物語"に腹が立った。
私が主人公だったのよ。
主人公は幸せになるものじゃないの?
それとも今の私はもう主人公じゃないから?


だが、そんなことは、もうどうでも良かった。
結局、朱月を救えなかったのだ。
結局、"物語"の管理人の使命から逃れることは出来なかったのだ。
私はベッドに突っ伏して、泣いた。




………、ちょっと待って。
シンデレラは私。
王子様はレオン。
魔法使いは朱月。
じゃあ主人公は…、誰?


…なんだ、なんて単純なことだったんだろう。
思い込みもいいトコ。
まだ、何も終わってないじゃない。
今私に出来ること、それは…