君との思い出

夜、僕は風鈴の音を聞きながらタバコを吹かしていた。
彼がいなくなってしまったことが相当ショックだったのだ。
思えば、僕は彼に何をしてあげたのだろう?


彼は草原を走っていた。
何にも縛られていない、自然な姿で。
彼は笑っていた。
本当に、楽しそうに。


「ごめん、ごめんな…」


僕は謝りながら彼の後を追った。
だが、距離は縮まらない。



「ごめん、本当にごめん」


僕の声が届いたのか、ただの気まぐれか、
彼はこちらを振り向き、笑った。
そして、まるでそこに居なかったように、彼は消えた。


「熱っ!」
僕はタバコを畳の上に落とした。
どうやら夢を見ていたようだ。


夢の中で彼は笑っていた。
だが、それは僕の願望だ。
楽しかった、そう思っていてほしかったのだ。


僕は落ちたタバコを拾い上げ、灰皿に押しつぶし、
もう一本、とケースに手をかけた。
だが、中には一本も入っていなかった。


はぁ、とため息をつき、僕はなんとなしに頬に触れた。
そこは、涙で濡れていた。