執筆の練習

美緒「もう我慢出来ない!」


とうとう私の不満は爆発した。
どうして、どうして二人は戦っているの?
私のために戦うのはやめて!、なんて何処かの妄想お姫様みたいなことは思っていない。


私は隣にいた兵士から剣を奪い取ると、剣道でいう中段の構えをした。


美緒「あんたたち、私が欲しいんでしょう? なら私と戦うのが筋ってもんじゃないの?」


不満の原因はこれだ。
「ヒロイン」の私を求めているのはわかる。
けど、ならどうして私は蚊帳の外なんだろう?
黙って聞いてれば私を「物」みたいに扱って。
私は不満を言葉にして吐き出した。


朱月とレオンは肩を上下させて、私の言葉を呆然と聞いていた。
すると突然、


レオン「ぷ…、はっはははは!」
常に微笑を崩さなかった王子様が爆笑した。


レオン「ククク…。 本当、お前は面白いよ」


そう言いながらレオンは、持っていたクレイモアをシンと鞘にしまった。
そして、両手を上にあげて「降参」のポーズをとった。


レオン「無理だな。 惚れてる女に刃を向けるなんて、俺には出来ない」
内心ホっとしながら、今度は朱月へと牙を向ける。


美緒「朱月はどうすんの!? 戦るの?戦らないの?」


ガー、と捲し立てると、朱月はツカツカと私の方へ近づいてきた。
そして、無言で持っていた剣を振り下ろした。
私はとっさに持っていた剣で受け止めたが、
流麗な朱月の動きは、実はものすごく力強かったらしい。
剣は私の手から何の抵抗もしないで離れていった。


美緒「っ…! ちょっとは手加減…」
朱月の顔を見ようとしたが、私の目の前にはサーベルの切っ先が在った。
朱月「しないよ。 勝てば君が手に入るんだろ? なら…」


斬られる。
このまま首を一閃されて、
「こうして、シンデレラは魔法使いに首を飛ばされて死んでしまいました。 くわばらくわばら」
なんて縁起でも無い、子供が見られないようなストーリーが完成しちゃうんだわ。
こんな薄幸のヒロイン、前代未聞じゃないかしら?


そんなことを考えていると、私の体はフワリと前のめりになった。
朱月「本気になって願いを叶える。 君と一緒に"物語"を完成させる、という願望を」
私は、朱月に抱かれていた。


朱月「俺と君で"物語"を完成させたい。 …駄目かな?」
駄目?
何言ってるの、この根暗魔法使いは。
そんなの、
美緒「良いに決まってんでしょ!」
私は破顔している朱月に口付けをした。




そうして、世界は崩壊した。